雲 雲 雲 雲 雲 雲 雲 雲

よこはま縁むすび講中

メニュー

横浜市民ギャラリーあざみ野
横浜市立山内小学校5年生による「写真と俳句展」

edited by

横浜市民ギャラリーあざみ野の展示室に整然と並んだ横浜市立山内小学校5年生の作品、112枚の写真と俳句。その一枚一枚の放つ輝きは圧巻でした。見慣れたはずの街の風景や生活が、子どもたちの瞳を通してみると発見や感動に満ちていました。展覧会をぐるりと一周した後に訪れた清々しさを、ぜひ多くの人に味わってもらいたいです。子どもたちからのたくさんのエネルギーが人へ、街へ伝わり循環していく、これからも続きそして広がって欲しい企画、展覧会です。

取材・撮影 南部聡子(青葉区)


横浜市民ギャラリーあざみ野の企画により、2013年に横浜市立山内小学校と連携して始まった「写真と俳句展」があります。これは、小学5年生を対象とした「自分の『大切なもの』をテーマに写真を撮る」という計2日間のワークショップを経て作られた子どもたちの作品が、横浜市民ギャラリーあざみ野に展示されるという企画です。今年度は6、7月に写真のワークショップが学校で行われ、その後、写真に添える俳句を国語の授業で作り、10月に展覧会開催となりました。

2021年10月の展示の様子。
2021年10月の展示の様子。112枚の作品が整然と並ぶ展覧会は一見とても静かですが、一つひとつの作品と向き合うと、それぞれの作品が賑やかに語りかけてくるような、小学生の持つエネルギーに溢れています。

2018年からこの企画を引き継ぎ、担当している横浜市民ギャラリーあざみ野の岡崎智美さんは、子どもたちがたくさん心を動かしながら新しい出会いをしたり、この先出会うものの見方が豊かになったり、「アートを通して子どもたちを育むこと」を大切にしています。そして街の人たちにとっても、街との新たな出会いを運んでくるものとなる展覧会になればと考えています。

見慣れた街や日常にある「面白い」を見つける天才!
見慣れた街や日常にある「面白い」を見つける天才! 一つひとつの作品の向こう側に、シャッターを切り言葉を選んだ子どもたちの姿が目に浮かびます。

このワークショップの講師である三ツ山一志(みつやまかずし)さんは、2007年より横浜美術館副館長、横浜市民ギャラリーあざみ野館長、横浜市民ギャラリー館長を歴任し、「アートの活動が子どもたちの育ちをどのようにサポートしていけるか」をテーマに活動を続けています。

今年は山内小学校の先生より、5年生の国語の単元である俳句と、ワークショップで撮影した写真を組み合わせたいという提案があり、前回までの作文との組み合わせから、新たな挑戦となりました。日本の伝統的な言葉による表現の一つである俳句。わずか17文字のなかでこそ輝く言葉の力を、子どもたちの切り取った瞬間の写真とともに、作り手の子どもたちも、展覧会を観た人たちも体感できた企画でした。

ワークショップ1日目
「迫るもの、撮るもの、写真は自由な表現だ」

2021年6月、最初のワークショップが行われました。講師の三ツ山さんと子どもたちが出会います。
三ツ山さんから今年の秋、俳句と写真の展覧会をすることを伝えられた子どもたち。ワクワクと緊張が入り混じった気持ちでワークショップが始まりました。

「自分だったらどんなテーマで撮りたい?」「同じものでも撮り方によって全く印象が変わるね」と三ツ山さん。写真に撮るものとして、何を選ぶのか、どんな時間に、どんな角度で、形のあるもの、形のないもの? シャッターは気軽に押せるけれど、その瞬間に何を切り取るのか、どんなふうに写すのか、そこにある自由な広がりを三ツ山さんは例を見せながら分かりやすく子どもたちに伝えます。

三ツ山さんの撮影した写真を見比べながらのレクチャー
三ツ山さんの撮影した写真を見比べながらのレクチャー。(写真提供:横浜市民ギャラリーあざみ野)

「その道のプロである三ツ山さんからの学びは、子どもたちの心を耕しますね」と、にこやかにこの様子を見守る佐藤正淳校長の姿もありました。佐藤校長は、2019年度に山内小学校へ着任してから「未来を創る子どもたちのためには、学校での学びを社会や自らの将来につなげることが大切だ」と考え、まちや企業との連携を進めてきました。横浜市民ギャラリーあざみ野が学区にあり、この企画のような連携や共働が、子どもたちの未来につながるとても価値の深いものと考えています。
「コロナ禍で子どもたちの活動が制限されている中でも、制限する方向にばかり向かい、今しかない学校生活を送る子どもたちが『どうせコロナでできない』という気持ちになってしまうのはもったいないことです。ですから、昨年度は中止となってしまったこの企画を、今年度はどうにか実現させてあげたいと思っていました」と、子どもたちの学びの場を様々な連携の中で守り、作る佐藤校長。

さて、いよいよデジタルカメラを1人一台受け取り、操作の説明を熱心に聞きます。デジタル機器に慣れているのでしょう、子どもたちはどんどん操作を覚えます。

撮影は宿題となりました。三ツ山さんからの「じょうずに取ろうとしなくても良いから、気になるもの、心が動いたものがあったらどんどんシャッターを切ってごらん」というアドバイスを受けての宿題です。
岡崎さんは「撮るもの、迫るものそれぞれの中に子どもたち一人ひとりの世界が見えるようで、毎年楽しみです」と、デジタルカメラを手にする子どもたちを見つめます。

とっても素敵な一枚
「撮影は宿題だったので、撮影している姿を記録に残せなかったのが残念だなと思っていたら、子どもたちが撮って来た中に、撮影している友達を撮った写真があったので良かったです。とっても素敵な一枚ですよ」と岡崎さんが見せてくれました。(写真提供:保坂真宥さん)

カメラを持ち帰った日はちょうど雨上がりの美しい夕焼けでした。
作品となった写真を並べてみると、空を見ていた子、足元の水たまりを見つめていた子、雲を見ていた子、街を見ていた子、花を見つめていた子、同じ瞬間を生きながら、それぞれの時間を生きているということが一つひとつの作品から改めて迫って来ます。

ワークショップ2日目
「感心する心、受けとめる心。一枚の写真を選ぶとき」

さて、子どもたち、どんな写真を撮ってきたのでしょうか。撮った写真は全て個別にサムネイルにして、見られるようになっています。中には100枚以上撮影してきた子もいました。

この中から一枚、展示作品を選ぶ作業に入ります。撮影した写真を自分の目だけでなく、クラスのみんなで見せ合い、意見をもらったり、三ツ山さんや担任の先生のアドバイスを受けながら選びます。

サムネイルを真剣に見合う子どもたち。
サムネイルを真剣に見合う子どもたち。(写真提供:横浜市民ギャラリーあざみ野)

自分の作品を人に見せ、意見をもらうというのは、ドキドキすることでしょう。三ツ山さんからは「作品を見るとき、人の本気をバカにするようなことはあってはいけないよ。自分が思いつかない表現をする人もたくさんいる。そんなときは焼きもちを焼かずに“感心”しよう。感心ついでに『どうやったの?』と聞いてごらん。感心できる人は感心したそのことが身につく可能性が大だよ。人の一生懸命を感心できる心を持って作品を見てね」という言葉がありました。 「表現活動は感心して、自分にあるものやないものに出会うことが大切」と三ツ山さんは考えています。

「青きもの 夜空のように 光るもの」
「青きもの 夜空のように 光るもの」。撮ってきた、たくさんの写真の中からみんなの意見を聞き、西山隼さんが選んだ一枚は、偶然、ネックホルターの紐の一部がアップで撮影された一枚でした。(写真提供:横浜市民ギャラリーあざみ野)

同じアングルから何枚もの夜景を撮った下副田樹さんは、最初ピントがブレてしまい、ピントが合うまで何度もシャッターを切りました。そしてその何枚もの写真を見た三ツ山さんから「この写真、面白いね!」と指さされたのは、自分が失敗したと思っていた方の写真でした。下副田さんは、最終的にその一枚を選び、「この夜景 神様からの 送り物」という俳句をつけて作品としました。

三ツ山さんからの「ブレていたり、ボケていたりしていても、それがいい味になったり、そのときの気持ちが表れていたりするから失敗と思わなくてもいいんだよ」という言葉に、子どもたちはちょっと驚いたようです。そして改めて自分の写真を眺め、嬉しい発見をした様子でした。友達からの意見をもらって、自分の写真の良いところに気づけたという子がたくさんいました。また、同じ被写体でも、撮る人によって全然違って見えることにも気付きました。

色々なアドバイスや意見をもらい、「表現は自分の見たことや思ったことや考えたことをこんなふうにあんなふうに表すことで、自分で決めていいものなんだよ。誰かと比べて、じょうずへたを競うものではないよ。『自分はこう表しました。あなたは?』と、表現にはそれぞれの仕方があるものだよ」という三ツ山さんの言葉に背中を押され、最後は皆、自分自身で「これ」という一枚を決めました。

「人の心を受け止める心があるかないかで、その後の人生も変わっていくと思います。小学校5年生、ちょうど自我が育つこの時期に、このような体験をしてもらえることは貴重だと考えています。この先、何かの時にこのワークショップでの体験を思い出すことが、自分を認められたり、人を傷つけたりしないブレーキになってくれたら嬉しいです」と岡崎さん。

俳句作り
「写真と言葉をつなぐとき」

二日間の写真のワークショップを経たのち、担任の先生の国語の授業でその写真につける俳句を作りました。
授業では子どもたちの自由な発想を大切にしたそうです。まずウェビングマップ(思いついた言葉を記載していき、そ のアイディアをつなげていく思考の整理に役立つ地図)、その中から俳句に使えそうな言葉を集めたり、友達に相談したりしながら制作が進められました。友達の作品を見て、「同じ言葉でも言い方を変えると違う雰囲気になるんだ」などの気づきを得て、自分の俳句をどんどん進化させていく子どもたち。「友達との関わりの中で様々な作品にふれ、感じたことを伝え合うことで、感性を豊かにする良いきっかけになりました」と担任の先生は活動を振り返ります。

俳句
どんなふうに俳句を作ったのか、どんな工夫をしたのか子どもたちに尋ねると「今まで使ったことのないちょっと難しい言葉や漢字を入れてみた」、「いくつも作って先生に相談しながらどれにするか決めた」「カタカナにして音を入れてみようと思った」など、それぞれの工夫や学びがあります。

展覧会
「小学5年生112人のまなざしと出会う場所」

展覧会は10月21日から10月24日に、横浜市民ギャラリーあざみ野の展示室2で開催されました。

展覧会初日に会場を訪れた佐藤校長は「本物のギャラリーでの展示。キラキラした最高の場で多くの方に作品を観てもらえるこの体験を、子どもたちは一生忘れないことでしょう。このワークショプを通して、具体的に何がどう変わるのかは分かりません。しかし、『このまちが好き』とか『新しいことを学ぶって楽しい』とか『人に観てもらうって“快感!”』とか…子どもたちの心の中に、キラリと光るものを遺したことは間違いありません」と企画を振り返ります。

岡崎さん
「同じ街に住んでいる人の様子が見えにくくなり、人の温もりが感じられにくくなっているようにも感じられる今、112人の子どもたちがこんな風に街や暮らしを見つめている、その街に自分はいるんだなと観る人に改めて受け止めてもらえたのでは。子どもたちが見る風景に観る人の思いが共鳴することで街の姿が浮かび上がっていくようですね」と岡崎さんは話してくれました。

会場には家族と来場する子どもたちがみられました。展覧会に家族と入ってくる子どもたちは、どこか誇らしげに見えます。 真っ先に自分の作品に向かうかと思いきや、どの子も、最初から順番に一枚一枚じっくりと見つめ、何か家族と話しながら歩を進める様子が印象的でした。果たして、どれがその子の作品なのだろうかと見つめていると、お母さんがスマホを取り出して写真を撮る様子でようやく、ああそれがあの子の作品なのだと気づきます。中には、気に入った他の子の作品もお母さんに撮影をお願いしている子もいました。

展覧会をお母さんと観た長田夢希さんは、お母さんから「人それぞれの写真や俳句から気持ちが伝わって来てとても楽しかった」と感想をもらい、自分自身もみんなの作品が見られて嬉しかったそうです。「人によって感じ方や伝え方が違って面白かった。またこのような機会があれば、行ってみたい」と思ったそうです。

石田唯さんは、お父さん、お母さんと「みんながどんな気持ちで俳句を作っているのかを想像しながら」観に来ました。自分の作品について「すごくいいね!」と言ってもらい、「自分が撮った写真と書いた俳句を褒められて嬉しかった」と感想をくれました。また「普段あまり、ほかの人の作品を観る機会はなかったけれど、今回はみんなの作品がじっくり観ることができて嬉しかった」そうです。

家のベランダからの夕空を写した作品
妹さんとお母さんと観に来ていた飯島優凪さんは、家のベランダからの夕空を写した作品でした。「自分の撮った写真がこんな風に大きな作品となって観ることができたのが新鮮」と言い、お母さんと、ベビーカーからじっとお姉ちゃんの作品を見つめる妹さんの姿が印象的でした。

小学校5年生という、思春期に差し掛かるこの時期に、こんなふうに自分の作品を家族と一緒に観て、色々なことを尋ねられたり、話したりすることのできる展覧会の意味の深さを感じます。作品を通して話をすることは、きっと普段の会話とはまた違った心持ちで言葉を素直に交わせるように思います。

「お手紙コーナー」
「お手紙コーナー」は「作品を観た人たちが感じたことを子どもたちに生で味わってもらいたい」と今回、初めての岡崎さんが試みた仕掛けです。

展覧会を一周巡ると、最後に「お手紙のコーナー」が設けられ、色とりどりの付箋に、観覧した人たちのメッセージが貼られていました。「切りとる、選ぶ、整える まちのすばらしさ 人生の素晴らしさ 最高です!」と活動を見守ってきた佐藤校長のメッセージもありました。また、「5年生の目線が、なんだかなつかしいような。かわいらしいような。新鮮に観ました」「写真と俳句の組み合わせがそれぞれ互いを引き立てていて、心に響きました」「何気ない瞬間だったり、日常の風景だったり、皆それぞれで面白い」など、地域の人からのメッセージと思われるものも多くありました。

子どもたちの真っ直ぐな作品が、観に来た人たちの心にたくさんの感動や気付きを届けているという手応えが伝わります。普段の暮らしの中では、なかなか言葉を交わす機会のない小学生と、街の人々との心の交流が生まれる展覧会に、街のエネルギーの循環を生み出す場としての力を感じます。

「5年生すごい! 来年、自分はこんなにすごい作品を作れるかな……」
「5年生すごい! 来年、自分はこんなにすごい作品を作れるかな……」メッセージの中に、山内小学校の4年生の子どもたちのものもありました。来年は自分たちの番だ、と作品を観に来た子どもたちの思いを見て、来年が私も楽しみです。

来年度もきっとこの企画が実現され、そしてまた1人でも多くの街の方にこの展覧会に足を運んでもらいたいと願わずにはいられません。子どもたちの真っ直ぐな瞳と瑞々しい感性、その感性をアートへと導く講師である三ツ山さん、企画を支える山内小学校佐藤正淳校長をはじめとする先生方、そして市民ギャラリーの岡崎さんの思い、展覧会に来場した人たちが作り出した掛け替えのない時間。この出会いと学びの先には、これからも続く112人と、この街の未来があります。そしてその未来は、この企画を経て、新たな可能性を含んだものとなったことを確信する展覧会でした。

About

横浜市民ギャラリーあざみ野
よこはま縁むすび講中 関連企画
自分の思いと写真 横浜市立山内小学校5年生による
「写真と俳句展」

https://artazamino.jp/event/yamauchi-2021/

2021年10月21日から10月24日

information

横浜市民ギャラリーあざみ野

横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内
TEL 045-910-5656
FAX 045-910-5674
https://artazamino.jp/

この記事を書いた人

南部聡子 森ノオト ライター

青葉区寺家ふるさと村の風景の中で子育てをしたいと、その傍に住む。役者と教師の二足の草鞋を経て、生徒たちの感性に痺れ教師の道を進む。

よこはま縁むすび講中

http://yokohama-enmusubi.jp/

Scroll