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市民参加型 チャンバラ合戦「秋の陣」
「小机城のあるまちを愛する会」が来年度開催に託す思い

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「小机城のあるまちを愛する会」(以下、城まち会)主催のチャンバラ合戦「秋の陣」は、地域の活性化を目指して活動する同団体が2018年より毎年秋に開催しているイベントで、地域の歴史遺産・小机城にスポットをあてながらまちの魅力を多くの人に知ってもらうことをねらいとしています。新型コロナ感染症拡大の懸念から、今年度は規模を縮小しての開催となりましたが、11月下旬の日曜日、小机城跡地である「小机城址市民の森」にてイベントの企画運営スタッフを中心に本格的な模擬演習・撮影会が行われました。来年以降、本格的な開催への期待がますます高まります。

取材・撮影 河原木裕美(青葉区)


「刀を挙げよ」
「戦、開始」
「おー!」

大地からせり上がるように響く太鼓の音。
絡み合う視線。にじり寄る足音。
そこから一気に距離を詰める――

JR横浜線「新横浜」の隣り「小机」駅より、巨大な日産スタジアムを背に線路沿いの道を10分程行くと、続日本百名城に認定された「小机城」の跡地「小机城址市民の森」があります。高校、大学と毎日横浜線を使って通学していた私。当時は「小机」で途中下車してまちを散策するなんて心の余裕もなく、ただぼんやりと眺めていた車窓からの一風景に時を経た今実際に降り立ってみると、こんなところに過去とつながる歴史上の大舞台があったのか……と軽い驚きがじんわり胸中に広がっていきます。民家が立ち並ぶ細い小道に入り、しばらく歩くと城址への入り口が見えてきました。

戦国時代へタイムスリップ、撮影隊に合流

約束の9時に合わせて到着すると、既に撮影会は始まっているとのこと。城跡中央の高台にある2つの広場、本丸・二の丸に向かって山のような傾斜状の形をした城址の麓にある入り口までわざわざ出迎えに来てくれたのは、今年度、城まち会で秋の陣を取り仕切っている寺谷悟さん。城を守っていた武士が住んでいたとされる「根古屋」と呼ばれる広場を通り、なだらかな上り坂になっている入り組んだ竹林を一緒に歩きます。

2021年度の秋の陣は、当初例年通り一般の参加者を募ったチャンバラ合戦を10月に行う予定で計画されていました。ところが、新型コロナウイルス感染症拡大の状況を鑑み、開催直前、規模縮小での延期を決定しました。内容を関係者を中心とした模擬演習に変更し、その様子を写真、動画にて撮影・公開することにしたのは、もちろん来年度以降のイベント開催につなげていきたいとの強い思いがあってのことです。「本当はみんなでチャンバラ合戦の予定だったんですが……」と残念そうな表情を浮かべた寺谷さん「でも。今日、晴れて本当によかった」。ゆっくりと空を見上げたその横顔に、気持ちを切り替え前に進む城まち会の心意気と力強さを感じました。

小机城の入り口から本丸へ向かいます。
小机城の入り口から本丸へ向かいます。この場所では、近年多く生えてきた竹を生かし、毎年「小机城址市民の森 竹灯籠まつり」というイベントも開催されているとのこと(主催:特定非営利活動法人 日本の竹ファンクラブ)。この年は11月6日に開催され、竹灯籠が織りなす見事な景色を一目見ようと、行列ができるほど多くの来場者が押し寄せたといいます。

「あれ、移動してるな。さっきまでここで撮っていたのに」
撮影隊の後を追ってさらに林の奥へと進んでいくと、ぽかんと開けた二の丸広場に出ます。いました、いました。戦国武将たちが。どうやら撮影合間の小休憩のようです。この日の予想最高気温は15℃とはいえ、深い木々に囲まれた朝の城址の空気はしんと冷ややかで、午後からの雨予報も相まって体感温度はさらに低く感じられます。

兵庫県からわざわざ取り寄せたという立派な武将と歩兵の衣装に身を包んでいたのは、城まち会の神谷敏明さん、市川武さん、若杉滋さん、岡田裕美さんの4人。敵方の歩兵は黒を基調としたシンプルな出で立ち、対する城を守る大将と兵は鮮やかな赤が印象的な装備を身につけています。堂々とした立ち振る舞いに、てっきり今日のために呼ばれたプロの役者さんだと思って話をしていたのですが、後に城まち会のメンバーだと知りびっくり。

鎧を身にまとうってどんな感じなんでしょうか。着心地はいかがですか?「今日は防寒対策で下に着込んでいます」、「これは軽いからまだ動けますけど。本物の鎧だったらこの坂の上り下り、厳しいですね」…。保温肌着やライトダウンジャケットなどのなかった時代、鎧を作るための軽量材質などもちろんあるはずもなく、当時の武士たちは本当に大変だったねと皆で戦国時代へ思いを馳せます。

いざ、出陣。
いざ、出陣。カメラを前にポーズを決める城まち会の皆さん。衣装もそれぞれ違ったデザインで見応えがあります。写真左から若杉さん、市川さん、神谷さん、岡田さん。

「次は斜面を使った攻防の絵を撮りたいので」
テキパキとした指示で現場を動かしていたのは、フォトグラファーでありNPO法人ゼロワン(以下、ゼロワン)理事の仲井裕介さん。ゼロワンは「外遊びを再び日本の文化に」をキャッチコピーに、チャンバラ合戦形式のイベントを各地で企画運営している団体です。城まち会と秋の陣でタッグを組むようになって2年目。「本当は商店街やまち中に旗を立ててスタンプラリーなんかもできたら面白いなと考えていたんです」と小机のまちを丸ごと取り込んだイベントを検討していました。残念ながら当初の計画は叶いませんでしたが「来年こそは」と意気込みを語ります。

傾斜の急な斜面から攻め込む歩兵と対峙する武将たち
傾斜の急な斜面から攻め込む歩兵と対峙する武将たち。実戦の場面を再現することで、城全体の構造をより立体的に理解することができます。

その後、撮影場所を移し竹林の中へ分け入る一行。少し開けたスペースを見つけると、身長の倍以上はあると思われる竹槍を用いた実戦の様子を撮影します。

竹槍を使った演習。演技にも熱が入ります。
竹槍を使った演習。演技にも熱が入ります。

竹槍は長さがある分扱いにくそうに見えましたが、撮影が進むにつれ槍を操る手つきに磨きがかかり力強さを帯びてきます。槍を構えて突撃するシーンの撮影にはテイク数を重ね時間がかかりましたが、動きを感じる迫力ある映像仕上がりになっているのではないかと、撮影の様子を間近で見守っていた私が密かに一番楽しみにしています。

また「空堀」と呼ばれる水をはらないタイプの堀を歩いた時のこと。武将姿の神谷さんが「本当はもっとV字が深かったんだろうな。こうして並んで歩けちゃ意味をなさないから」と教えてくれました。堀の角度を鋭くし、わざと一人しか通れない細さにすることで、攻め入ろうとする敵を上方から確実に弓矢で狙い撃ちにすることができたのだそうです。そういう戦略的な目線で見てみると、小机城址がさらに面白くなってきます。

いざチャンバラ合戦へ

土塁や堀跡での撮影が一通り終わると、二の丸広場へ戻り、いよいよチャンバラ合戦です。発泡ウレタン製の柔らかい短刀に持ち替え、敵の利き手と反対側の腕にマジックテープでつけられたプラスチックのボールを狙います。敵方、味方の2対2で始まった合戦も最初はお互い様子見といった感じで静かなゲーム展開でしたが、剣を交える度、徐々に場が白熱していくのが遠目にもわかります。

4歳から88歳まで参加実績があるというチャンバラ合戦
4歳から88歳まで参加実績があるというチャンバラ合戦。シンプルなルールながら奥が深く、子どもも大人も楽しめます。秋の陣では毎年テーマや主人公となる武将を設定することでストーリー性をもたせ、ゲームとしての面白さを深めると同時に、参加者がより興味をもって地域や歴史について学べる工夫をしています。

また来年以降のイベント時に使えるよう、チャンバラ合戦のルール説明動画の撮影も行いました。子どもにもわかりやすいようコミカルな演技を交えながらの撮影では、地元商店街を紹介するYouTubeチャンネル「小机城しろまちチャンネル」でも大活躍中の若杉さんの演技が光っていました。

ルール説明用の動画撮影が終わると、「よかったらみんなでやってみましょうか」の呼びかけに、私も手にしていたノートを鞄にしまい、ボールを固定するマジックテープのバンドを左腕につけてもらいます。相手の腕についているボールを落とすという極めてシンプルなルールながら、参加者全員を2つのチームに分けそれぞれのチームの生き残ったプレイヤーの数を競う「チーム戦」、それぞれのチームの大将をかけて戦う「大将戦」、チーム関係なく最後まで生き延びた人が勝ちの「個人戦」と楽しみ方のバリエーションも幅広く、飽きることがありません。秋の陣でもこれらをうまく組み合わせ、チームで戦略を練る面白さなども子ども達が体験できるようにしています。何より久しぶりに外で思いっきり体を動かす気持ちよさといったら。私も刀を手に合戦に参加してみて、子どもはもちろん、大人も一緒になって夢中になってしまう気持ちがよくわかりました。

「親子で体を動かしたいという子育て世代の思いと、まちの歴史を伝えていきたいという側のニーズがマッチしたのでは」とはゼロワンの仲井さん。チャンバラ合戦を通じた、多世代交流にも期待ができそうです。

過去開催の秋の陣より。刀を手にした子ども達が合戦に繰り出します。(写真提供:城まち会)
過去開催の秋の陣より。刀を手にした子ども達が合戦に繰り出します。(写真提供:城まち会)

撮影の合間にも「この格好で商店街を練り歩いて、”ごみ拾い侍”をやってみたらどうだろう」「子ども向けに鎧を作るワークショップなんかやってみても面白いかもしれない」「衣装を着て写真を撮りたいという人もいるかもしれないから、撮影会を企画しても参加者が集まるかもしれない」。城まち会のメンバーからは次の企画につながるようなアイデアが次々に生まれていきます。大人のサークル活動のような伸び伸びとした雰囲気の中、自由闊達に交わされる意見交換の様子は見ていて大変気持ちよく、城まち会に関わるようになったきっかけは皆それぞれと言いますが、「好き」の気持ちが今の活動の原動力になっているのがよく伝わってきます。

撮影の合間の作戦会議。楽しいアイデアが尽きません。
撮影の合間の作戦会議。楽しいアイデアが尽きません。

チャンバラ合戦「秋の陣」は、当初の予定から内容を大幅に変更し、今年度は来年以降の秋の陣準備のための活動となりました。それでも前向きに撮影会に臨む城まち会、そしてゼロワンスタッフの皆さんの姿がとても印象的でした。来年こそは――。秋の陣にたくさんの人々が集い、小机が誇る歴史の大舞台を全身で感じながらチャンバラ合戦でいい汗を流せる日が来ることを願っています。

チャンバラ合戦後、全員での記念写真
チャンバラ合戦後、全員での記念写真。このメンバーで盛り上げる来年の秋の陣が楽しみでなりません。左から2番目が秋の陣を担当する城まち会イベント部会代表・寺谷悟さん。ほか甲冑姿が格好いい城まち会のメンバーの皆さんと、撮影会の陰の立役者、映像撮影の神田直美さん(左から2番目)、撮影助勢の宮浦正枝さん(右から3番目)、写真撮影の仲井裕介さん(後列右端)。

About

小机城秋の陣「チャンバラ合戦」

2018年より毎年秋に開催。(2020年は開催できず、2021年は10月17日開催予定だったが中止し、11月20日に撮影目的のデモンストレーションを実施した)今後の情報は小机城のあるまちを愛する会からの発信を要チェック!

information

小机城のあるまちを愛する会(facebook)

https://www.facebook.com/kozukuejou/

この記事を書いた人

河原木裕美 森ノオト ライター

インドネシア・バリ島より一時帰国中。生まれ育った横浜市青葉区とその周辺地域の魅力をライター活動での取材を通して再発見中。

よこはま縁むすび講中

http://yokohama-enmusubi.jp/

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