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『小机の重政』上映会と
小机に元気を吹き込む「小机城のあるまちを愛する会」

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戦国時代に生きた小机城の若き城代「笠原重政(かさはらしげまさ)」が、なんとタイムスリップして現代の女子高生に当時の歴史を解説するというストーリーのボイスドラマが『小机の重政』です。音声と音響のみで構成されるそのボイスドラマに、地元の小学生と高校生が絵をつけた映像の上映会が、2021年度、港北区で度々開催されています。上映会に行ってみると、この企画が子どもたちにとって地域の歴史を体感するまたとない機会になっていること、そして小机城址という歴史遺産を要に地域活性の活動が盛り上がっていることを感じるひとときとなりました。

取材・撮影 松園智美(都筑区)


関東にも誇るべき戦国ヒーローがいた!

『小机の重政』は、戦国時代が舞台です。当時関東を支配していた北条家に仕え、鶴見川流域を広く束ねる拠点となっていた小机城の“城代”を任されていたのが笠原一族。16世紀末、小田原城に籠城していた北条家が全国統一間近の豊臣に攻め入られ、やがて小机城も開城してしまうという歴史上の出来事を、笠原重政がタイムスリップした現代の女子高生3人組に語る……というストーリーで、中では、
「よかったら、当時の状況を話してみてよ、重政くん」(女子高生)
「し、しげまさくん…?!(汗)」(重政)

と、ちょっとクスッとしてしまうようなシーンも盛り込まれ、重政のかっこいいキャラとリアリティある女子高生のくだけた会話でテンポよく進む話に引き込まれます。

当時の北条家は、豊臣に比べ税を軽く設定していたこと、目安箱を設置して領民の声を聞いていたこと、また、豊臣に敗北した後も民や家臣が血を流すことのないよう戦をせずに小机城を明け渡したことなどが重政の口から語られます。「(北条)氏直公は、本当に若きヒーローだった」という重政の力強い言葉を聞くと、戦国ドラマがまさにこの地でも展開していたのだと実感し、胸が熱くなるようです。

このボイスドラマに、地元の子どもたちが挿絵やアニメーションをつけ、音声と合体させた映像作品として上映するというのが今回の一連の企画です。
絵を描いたのは、市立小机小学校の2020年度5年生と、県立城郷高校の漫画研究部、アニメーションを作成したのは県立神奈川工業高校デザイン科の生徒たちです。

いざ、出陣。
いざ、出陣。
小机小5年生の描いた『小机の重政』。子どもたちは、登場する当時の北条氏の状況、小机がどんな状況に置かれていたか、当時の建物やどんなものを着ていたかなどを調べたり想像して描いたことでしょう。(画像提供:わがまち港北映像プロジェクト)
いざ、出陣。
いざ、出陣。
城郷高校漫画研究部の生徒が描いた『小机の重政』。こちらはかなり本格的。プロのような画力で、映像には、「小田原評定」「4公6民(課税割合を示す)」といった歴史を学習する際のキーワードもテロップで挿入され、歴史教材としてもわかりやすい仕上がりになっていました。(画像提供:わがまち港北映像プロジェクト)

小机の歴史で、街を元気にする「城まち会」

取材に伺ったのは、2021年11月19日、JR横浜線「小机」駅すぐ目の前にある城郷小机地区センターの体育館を会場に開催された『小机の重政』の上映会でした。

この日は、前述したボイスドラマに小机小学校の子どもたちと城郷高校の生徒がそれぞれ絵を描いた『小机の重政』紙芝居動画上映に加え、プロのソプラノ歌手による小机城址のオリジナルソングの発表、また、港北区の文化財である港北公会堂の緞帳が人間国宝の芹沢銈介によって地域の文化を表現しながら高い芸術品として作られたことを紹介する『芹沢銈介「知られざる港北の宝」~公会堂の緞帳をデザインした人間国宝~』という動画上映もプログラムに組み込まれ、地域の文化にふれられる催しとなっていました。

会場の様子
会場の様子。広めの会場に小学生や地域の人が集まっていました。受付では揃いのTシャツを着た城まち会のスタッフが消毒などの感染症対策を実施して開催されました。

今回の作品づくりを企画し上映会を主催したのは、市民団体「小机城のあるまちを愛する会」、通称「城まち会」です。

城まち会は、城や歴史の好きな地域の人が中心となり、シニアから大学生の若者まで色々な立場の人が20数名集まった市民団体。転入者や若者もメンバーになって歴史を中心にした小机のまちおこし活動を行なっています。2018年に発足したばかりながら、今、あふれんばかりのエネルギーで小机城址の魅力を全面に押し出し、街を元気にする活動を多方面に展開する存在です。

上映会の取材に先立ち、なぜ小机でこうした取り組みが行われるようになったのか、城まち会会長の木村光義さんと事務局の神谷敏明さん、そして上映会の企画を担当した川上あき子さんにお話を聞くことができました。

小机城が親しまれるようになったのは、実は最近のこと

今でこそ街や区のアイデンティティとして小机城が認識されるようになりましたが、実は小机城がここまで地域に根付いて知られるようになったのは、城まち会の方々によればここ数年のことだそう。
小机城址にある「小机城址市民の森」があることや、毎年春に地区をあげて行われる「小机城址まつり」などの存在は知られていたものの、城の特徴やどんな武将が活躍していたのかなど、一部の歴史好きな人を除いてはあまり一般にまで知られる機会がなかったのだといいます。
小机城址まつりは20年来行われており、戦国武将姿の住民が壮々と街を練り歩くなど様々なプログラムが盛り込まれた小机にとっての一大イベントだそうですが、年々来場者の数が減っていくという状況があったのだといいます。

改札前のMAP
小机城址まつりの武者行列
JR小机駅の改札前に貼られている小机城址市民の森までの案内ポスターと、毎年春に開催される小机城址まつりの武者行列の様子。(小机城址まつり写真提供:木村さん)

そこで、小机城址まつりを手伝っていたメンバーから歴史好きだった人が集まり、結成されたのが、城まち会でした。
城まち会の会長を務める木村さんは、
「この会は、歴史を好きな人のパワーに引っ張ってもらっています。ここ小机には田んぼ、山、畑の自然が残っている。それでいて近くに鉄道も通り新横浜も近い。でも商店街にはスーパーも無くなってしまいました。地元の人に小机の良さをわかってもらいたい、小机に愛着を持ってもらいたいと思って、城址まつりをやってきた仲間とこの会の活動を始めました」
と語ります。木村さんは、これまでに小学校校長や町内会長を歴任し、地域の中で会の活動がスムーズに運ぶよう昔からある地域の団体と会をつないでくれる存在でもあるそう。「活動はメンバー自身が“面白い”と感じることが一番ですね」と語る表情は柔和ながら、芯の通った心意気を感じるお人柄です。

会では部会をつくり、小机の重政の紙芝居づくりや上映会といった創作・啓発活動を催すほか、小机城など歴史関連スポットを巡る見学ガイドツアーなど実施する歴史の情報発信活動、そして地域とタイアップして春には城址まつりに協力、秋にはチャンバラ合戦をする「秋の陣」というイベントも主催するなどの歴史を中心にした活動を展開。そのほか小机の商店街の魅力を紹介するYouTube動画の制作・公開などまで広く行なっているのだといいます。

新横浜エリアといえば日産スタジアムや横浜アリーナ、そして駅周辺の繁華街というイメージが強かった私ですが、すぐ隣に、こんなにも城の歴史を大切にしてきた昔ながらの地域があったことを初めて知りました。また、その魅力を楽しく活用しようとしている人たちが集まり、周囲を巻き込んで面白そうな活動を広げていることを知り、わくわくするような高揚感も湧いてきました。

小机城址遠景
街の風景
小机城址公園を新横浜駅方面からのぞんだ風景と、小机の商店街。かつて色々なお店が営まれ、便利だった小机商店街では、スーパーマーケットが撤退したり駐車場が増えているそうですが、一方、実際にメインストリートを歩いてみればおいしそうな焼き鳥の香りに引き寄せられそうになる肉屋さんや、こだわりありそうなコーヒー店、蒸気立つアイロンを片手に忙しそうなクリーニング店など、まちの活気を感じるスポットも目に入ります。

子どもへの思いから生まれた『小机の重政』

さて、上映会に話を戻します。取材した上映会には、『小机の重政』のボイスドラマを制作した菊名が拠点の地域劇団「スターリンクス」を主宰する松井寿徳さんも来場していました。

松井さん、どうして『小机の重政』を作ろうと思ったのですか?

「きっかけは、小机城址まつりを見たことでした。武者行列にお殿様がいるので、”誰だろう、関東だから北条なんとかさんかな?”と思ったら、笠原と書いてある。 私も恥ずかしながらそれが誰か知りませんでした。調べて皆さんに知ってもらおうと、物語を考えたのです」とのこと。

「当時は、戦国時代の末期、豊臣秀吉がまさに全国統一をなそうとしていた直前で、関東は最後の最後まで豊富秀吉に抵抗していた地域でした。抵抗して最終的に滅ぼされた形にはなったのですが、(領民や家臣のことを思っていた)素敵なお殿様がいたということを皆さんにお伝えしたいと思ってボイスドラマを作りました。
小学生の皆さんには音だけではわかりにくいだろうと思い、”どなたか絵を描いてもらえませんか”と城まち会へ相談したことが、この上映会のスタートになったのです」と振り返ってくれました。

集合写真
写真中央の眼鏡をかけた男性が、城まち会会長の木村さん。その右隣が城まち会で上映会を担当する川上あき子さん、上映会の実務リーダーを担う若杉滋さん、会の事務局の神谷敏明さん。木村さんの隣に立つドレスの女性は木村会長の教え子だったソプラノ歌手・畑真由美さん。畑さんの左隣がスターリンクスの松井さん。一番左は様々な場面で城まち会に協力している大倉精神文化研究所所長の平井誠二さん。

地元の小机小学校は例年城址まつりに参加してもらうなど縁があったことから、5年生の3クラスでの紙芝居づくりが始まりました。さらに県立城郷高校の漫画研究部や神奈川県立工業高校デザイン科の生徒にも絵やアニメーションをつけてもらう活動が展開したのだとか。

川上さん
子供たちからのお礼のコメント集
城まち会の川上さんとスターリンクスの松井さんが小机小で紙芝居作りを教えた際の教室の黒板と、子どもたちからのお礼のコメント集。川上さんは、もともと地域で紙芝居を作るグループに参加し作品を作っていました。城まち会に入るまで地域の歴史には詳しくなかったそうですが『小机の重政』を初めて聴いたところ「重政に惚れました!」と、物語に自ら絵を描いて紙芝居を作り子どもたちに見せるところからこの活動が始まったのだそうです。

小学校での紙芝居づくりの学習後を終えた後には、子どもたちからのお礼のコメント集が会に届きました。そこには
「私は家の近くに雲松院があることは知っていたけれど、笠原照重・重政が眠っていることを初めて知りました。そしてこれから戦国時代のことをより詳しく知りたいと思いました。小机城のことも、もっと知りたくなりました」
「今までは“小机城”という名前しか知らなかったけれど、とても楽しかったです。下級生にも小机の歴史を伝えたいです」などの感想が。
また、川上さんと松井さんが実際に学校で紙芝居づくりに行ったときも「僕もこれから小机を守りたいです!」「家に帰ってから、お父さんやお母さんに重政のことを教えてあげたいです」と言う子もおり、この紙芝居づくりを通して地域への愛着が子どもたちの中に生まれ、家庭へも広がっていく手応えを感じたのだそうです。

描き、学んだ体感は記憶に残る

当日、会場の片隅で熱心に映像を見ていた中に、歴史研究家の平井誠二さんの姿もありました。
「重政のボイスドラマは、史実に基づきしっかり作ってあって絵空事ではないのです」と語る平井さん。平井さんは港北区大倉山にある郷土資料を収集・研究している大倉精神文化研究所の理事長兼同研究所長・同附属図書館長で、これまで小机の歴史関連イベントや城まち会の活動を応援し、様々なシーンで協力してきた、城まち会が発起以来頼りにしている存在です。
「子どもたちは、この経験を、歴史のことを忘れないでしょう。これから20年、30年と経って、何人かはここで生活し、その子どもたちがまた育っていきます。今まで何もなさそうな山だと思われていた小机城址は、これから地域の中でもっと有名になっていくことでしょう。今日は、その始まりを観られたんだという思いがあります」と、感慨深そうに言葉を選んで話してくれました。

平井さんは郷土史に精通しており、「北部4区はもともと一つの港北区だったわけですが、今は行政区が分かれてしまった。今、港北区の人は都筑区のことを知らない。青葉区の人も緑区の人もほかの区のことを知らないという状況ですが、でも昔はお城でつながっていました。ルーツは、鶴見川の流域という一つの文化圏だったんです」と地域の歴史と文化のつながりを解説してくれました。

かつては、篠原城(港北区)、大豆戸城(港北区)、佐江戸城(都筑区)、茅ヶ崎城(都筑区)、川和城(都筑区)、荏田城(青葉区)、榎下城(緑区)なども小机城の支城だったといわれています。
なるほど、小机城の歴史を知ることは、私たちが暮らす横浜北部の歴史を知ることにもなるのです。地域の歴史を知ることは、子どもに限らず誰にとっても郷土に誇りや愛着をもつきっかけになり、生きる力につながるでしょう。この『小机の重政』は、港北区にとどまらず、広く周辺のエリアに暮らす子どもから大人までぜひ知ってもらいたい作品だと実感する上映会でした。

この取材の後の2022年1月22日に予定されている上映会では、このとき製作中だった神奈川県立工業高校デザイン科の生徒によるアニメーションの『小机の重政』が初めて上映されるとのこと。『小机の重政』の今後の展開に注目です!

雲松院からの眺め
笠原家の菩提寺・雲松院からは小机の街並みが一望できます。笠原重政もここに眠り、今の小机の子どもや大人たちを見守ってくれていることでしょう。

About

「小机の重政」上映会

第1弾 港北図書館「港北ふるさと映像上映会」:2021年10月24日
第2弾 城郷小机地区センター:2021年11月20日
第3弾 港北公会堂・講堂 アニメ「小机の重政」上映会:2022年 1月22日(土)13:00〜参加無料

(第3弾の詳細は港北公会堂のHP参照 https://kohoku-kokaido.jp/information/event/376/

information

小机城のあるまちを愛する会(facebook)

https://www.facebook.com/kozukuejou/

『小机の重政』
音声のみのドラマを公開中。上映時間22分程。

この記事を書いた人

松園智美 森ノオト ライター

編集者。新潟県長岡市出身。港北ニュータウンの団地で3人の子どもを育てている真っ最中。学生時代からまち並みや建築に興味を持つ。

よこはま縁むすび講中

http://yokohama-enmusubi.jp/

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