横浜市緑区民文化センター みどりアートパーク
土遊び 土で絵を描くワークショップ
鎌倉時代から続く緑区の「旧家の敷地」から採取した土や、「横浜市歴史博物館」が土器作り教室などで使用している都筑区内で採取した土、また木々を燃やしたあとに出る炭や灰など、身近な自然物から絵の具を作り、絵を描くワークショップが、横浜市緑区民文化センターみどりアートパークで開催されました。布3枚に描かれた絵のテーマは「森を守る生き物」。緑区に生息する植物や動物のほかに、参加した子どもたちが想像して生み出した生き物たちが描かれています。およそ3カ月にわたる創作の場には、自然の息吹を体感し夢中で描き続けた子どもたちの姿がありました。
取材・撮影 松井ともこ(青葉区)
土を掘り、砕き、漉し、焚き火から炭や灰を取りだす
地域で暮らす子どもたちに、自分たちが暮らす地域や自然を感じてもらいたいと企画された「土遊び 土で絵を描くワークショップ」。自然由来素材を用いた制作を得意とし、命の循環をテーマにしている作家・スギサキハルナさんを講師にむかえ、2021年8月5日から11月13日までの間全9回開催されました。
2021年8月5日、蝉の声が響きわたる猛暑日。JR横浜線中山駅から徒歩10分ほどのところにある日本家屋の多目的スペース「なごみ邸」に、小学校2年生から中学校1年生までの参加者24名が集まりました。鎌倉時代から続くこの土地の主・齋藤好貴さんからの「ここには私の祖先が850年前から住んでいます。私たちが死んだ後も残り続けるこの場所を、私は大切にしてきました」というお話からワークショップが始まりました。続いて、栗田宏一さんの著書『土のコレクション』(フレーベル館、 2020年)を見ながら講師のスギサキハルナさんから日本にはたくさんの土の種類があるというお話を聞いた後、作業開始。A班、B班、C班に分かれて、シャベルで土を掘る、コンクリートをこすりあわせて土を砕く、ふるいで漉す作業を行ないます。微生物を逃がすために土を天日干しし乾燥させる作業もスギサキさんと一緒に行いました。
8月11日には新治市民の森で、『土がどのように生まれたか』レクチャーを受けました。にいはる里山交流センター事務局長の吉武美保子さんと一緒に、落ち葉をめくり土を触りながら、土は葉っぱと虫の死骸からできていて、その土からまた色々な生き物の命が生まれていく「いのちのつらなり」を体感しました。
旭谷戸広場では、他県で伐採したクヌギの枝を焼いて炭と灰を取り出し、冷まして、炭はブロックで砕いてから漉し、灰はそのまま漉して採取しました。
土から生まれた絵の具とじっくり触れ合う
8月末からは、みどりアートパークでの制作が始まりました。まずは、スギサキさんが絵の具を作る工程を見学。パウダー状になっている土や炭や灰に、木工用ボンド、水、定着剤(合成樹脂)を入れてよく溶きます。この日は、作った絵の具で、3枚の布と同じ素材の小さな布に、想像の「森を守る生き物」も描きました。初めて土の絵具の感触を味わい、土にじっくり触れる時間を堪能しました。
暑さも落ち着いてきた9月、スギサキさんが下絵を描いた3枚の布に、土や炭、灰の絵の具を塗っていく作業が始まりました。A班は「新治市民の森」で焚火をして採取した炭を原料とした黒の絵の具でルリボシカミキリ、ツマキチョウチョを。B班は「横浜市歴史博物館」が土器作り教室などで使用している都筑区内で採取した土(黄土)から採取した茶色の絵の具で苗を。C班は8月に採取した「旧家の敷地」の土から採取した赤茶色の絵の具でヒミズ、大鷹をそれぞれ塗っていきます。「新治市民の森」で焚火をして採取した灰からとったグレーの色は、3枚の作品のそれぞれに塗っていきました。
「土は出会った時と変わらない色を使うことを大切にしています」とスギサキさん。絵の具はすべて、他の色を混ぜずに塗ります。
「一番大事な土台の部分なので、ゆっくり丁寧に描いてください。叩いてトントンと押し込むように塗っていきます」とアドバイス。この後、想像の「森を守る生き物」を鉛筆で布に下描ききする作業も行いました。
天然顔料の絵具を塗り重ねていく
9月半ばから10月にかけては、乾いたベースの絵の上に、酸化鉄を原料とするベンガラなどの天然顔料を重ねて塗っていく作業に入りました。自分たちで採取した3色からはじまった絵の具も、同じ天然顔料である緑土を原料とするアースグリーン、黄土を原料とするイエローオーカーなど8色に増えました。集中して作業を続け終わると「先生、次は何をやればいいですか?」と次々とスギサキさんのもとへ並ぶ姿が見られました。
最後まで描き続ける手はとまらずに、完成!
木々が色づき始めた11月13日にワークショップは最終日を迎えました。この日は、ほぼ完成した作品の中に、細かい部分の色を重ねて塗っていきます。作業終了間際まで、色を塗り続けている子どもたちの姿が印象的でした。
完成して吊るされた絵をじっくり1人で眺めていた孝治想世さん(小5)は「絵を描くことが好きだったので参加しました。想像して描いた生き物は、触覚が生えている『モモンガ+ガのいきもの』。家の軽くて塗りやすい絵の具と違って、土は重くザラザラしていたので、はみださないように気を付けて塗っていきました」。また、ハサミの間から水が出る『カニの体とエビのしっぽが合体した生き物』を描いた松下智哉さん(小4)は「今日で最後というのが寂しい、まだ続けたい」と一言。「かみきり虫を青く塗るのが楽しかったです。なるべく端っこを丁寧に塗りました」と寂しさと嬉しさが入り混じった表情をしていました。 この日初めて作品を鑑賞したという米山笑菜さん(小5)のお母さんは「1人で乗ったこともなかった電車に乗って通うほど、楽しかったようです。こんなに素敵な絵を描いていたと知って感動しました」。
この土地で育まれつながる命
「子どもの頃、土を掘って描いた瞬間に自然とつながり、自分もその一部となった高揚感がありました」と話すのは講師のスギサキさん。「土は命のはじまりと終わりです。緑区で採取した土や灰の絵の具で、身近に生息する大鷹や植物を描いたことを通して、命の循環を子どもたちが感じてくれたら嬉しいですね」
「私も緑区内の色々な場所で土を掘ってみたのですが、それぞれ土が違っていて楽しかったんです」とみどりアートパークの武富俊一さん。「暮らしの中で土って意外と見ないもので、自分たちの暮らす街を足元から感じ、意識してもらえたら楽しいかな」と今回のワークショップを企画しました。
実は武富さんが同じ時期にディレクションに関わった『十日市場まちかどアートフェスティバル』(10月30日~11月21日まで開催)では、感染対策のため人と人とが直接的に結びつくようなイベントが出来なくなっていました。
武富さんは、間接的にでも人どうしの関わりが持てるようにと、通学路に手作りの黒板を設置してアーティストと子どもたちに自由なメッセージを描く企画を行いました。そんな中「土絵のワークショップでは、大きい絵をみんなで関わりをもちながら描いたことも良かったと思っています。子どもたちの絵を主人公にすることを大切にしてきました。これからを担う子どもたちの心に何かちょっとでも残ることがあったら」。
ザラザラと重い触感がある土の絵の具は筆を動かすと、長い年月をかけて育まれた生き物たちの命と繋がって包みこまれるような優しい心地良さを感じました。子どもたちが夢中になって土を掘り、その土で作った絵の具で描かれた3枚の絵からは、人と人、そして生きる物たちが繋がって一体となったあたたかく力強い鼓動が聞こえてきます。
About
みどりアートパーク
「土遊び 土で絵を描くワークショップ」
http://midori-artpark.jp/detals/000394.php
2021年 8月5日11日24日、9月11日18日、10月2日9日16日、11月13日
横浜市歴史博物館(https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/)で展示
2021年12月4日~19日
2022年1月22日 (土)~3月6日(日)
information
横浜市緑区民文化センター
みどりアートパーク
横浜市緑区長津田2-1-3
TEL 045-986-2441
FAX 045-986-2445
http://midori-artpark.jp
この記事を書いた人
松井ともこ 森ノオト ライター
緑区の高校に通い、大学時代にお芝居の世界へ。劇団や公共施設で働き、現在は子育てと仕事の両立を模索する2児の母。ワークショップデザイナー。