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よこはま縁むすび講中シンポジウムアーカイブ映像配信
2023年3月 公開

【シリーズ 横浜北部文化考】
ものづくりも地産地消?!まち工場(こうば)が連携し、仕事の魅力を次世代にあたたかく伝える

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製造業者の集積地という一面もある横浜北部。今、地域の製造業関連の中小企業が横につながり、それぞれに腕を誇る「ものづくり」の魅力を子どもたちに伝えようというムーブメントがあるのをご存じでしょうか?地域の学校や商業施設、イベントやミュージアムなど様々な場に出張してものづくりの魅力や仕事としての面白さを伝える「メイドインつづき」参加企業のネットワークの例を紹介します。

取材・撮影 持田三貴子


「ものづくり産業」も、私たちの誇るべき地域文化の一つ

「よこはま縁むすび講中」のフィールドである横浜市北部4区(港北区、緑区、青葉区、都筑区)は、都心からのアクセスも良く、緑豊かな住宅地であるとともに、実は、工業や農業などの「産業」が盛んな地域でもあります。特に港北区、都筑区には、ものづくり企業が多く立地しており、横浜市内における製造業事業所数の1位が港北区(453)、2位が都筑区(362)、3位鶴見区(323)、4位金沢区(250)(令和2年6月時点 横浜市政策局発表)……というように、この地域は工業のまちでもあるのです。

都筑区南部と緑区北部の一部を含む鶴見川沿いには、市内でも有数の製造業集積地である「内陸北部工業地域」と呼ばれる工業地域が広がっています。第三京浜道路港北ICが近く、緑産業道路が走るこのエリアは車のアクセスが良く、工場の立地に適しており、大企業の工場や事業所が多く数多く集まっています。
他にも、横浜市営地下鉄新羽駅および隣接する北新横浜駅周辺には「港北中部工業地域」、港北区東部にある東急東横線綱島駅近くの鶴見川沿いには「鶴見西部・港北東部工業地域」と呼ばれる工場が集まっているエリアのほか、第三京浜道路都筑ICのすぐ近くにある規模の小さな「早渕工業団地」、住居と小規模な工場が多数混在する都筑区東山田4丁目の「東山田準工業地域」があり、まちなかにある中小企業の製造業、いわゆる「まち工場」が多数立地しています。

特に工場の建つエリアが多い都筑区と港北区では、このように身近にものづくりの現場があることを地域の特色として捉え、「まち工場」を地域の魅力として発信する取り組みが近年行われています。

都筑区では、区内に立地するものづくり企業が持つ高度な技術や独創的な製品を「メイドインつづき」というブランドとしてPRし、販路開拓や企業間連携につながる支援事業を平成22(2010)年度から始めています。

「メイドインつづき」のロゴマーク。一つひとつで立っていた企業があたまを寄せ合って交流を持ち始めることで何かが動き始めようとしているマークが現在の「メイドインつづき」を表しており、輝く星や花を連想する形に、今後の発展への期待が込められているのだそうです。

また、港北区では、ものづくりの面白さや作り手の思いを伝えるイベントとして、一般市民を対象にした「港北オープンファクトリー」という工場見学の取り組みを平成24(2012)年度から開催しています。

2019年度の「港北オープンファクトリー」にて、株式会社バネックスの「制御盤(エレベーター等の自動で動く電気機器等を制御する設備)」の製造過程を見学している様子。普段は見ることができないものづくりの現場を見学できる貴重な機会!(提供:港北区)

事例レポート 産業や工場と絡めた新しい地域活性の動き「メイドインつづき」

都筑区では、一定の申請要件を満たした区内に立地する中小製造業の中から「メイドインつづき企業」を募集・選定し、令和4(2022)年11月現在45社のものづくり企業が「メイドインつづき推進事業」に参加しています。いずれも優れた独自の技術と製品を持つ会社ばかりです。

「メイドインつづき」の主な取り組みとしては、①毎年2月にパシフィコ横浜で開催されている、県内最大級の工業技術・製品の総合見本市「テクニカルショウヨコハマ」(神奈川県または横浜市などが主催)にて、「メイドインつづきブース」を設け、その一角にメイドインつづき企業が自社ブースを出展できるという支援のほか、②メイドインつづき企業の紹介冊子や動画の制作、パネル展や子どもたちの「ものづくり体験」イベントなどの開催、③参加企業間の交流や連携を深めるため、年に数回の全体ミーティングの開催などが行われています。
「テクニカルショウ」への出展は、規模が小さな会社にとってはハードルが高いものでしたが、メイドインつづきブースで出展することによって、独自出展よりも小規模・安価で参加することができるのだそう。

2022年11月3日に開催された『第28回都筑区民まつり』の「メイドインつづき」のブースでは、金属板のキーホルダーに子どもたちの好きなアルファベットの文字をハンマーで打刻する「打刻体験のワークショップ」を開催。子どもたちは夢中で作業をしていました。

「メイドインつづき」は、行政の支援事業としてスタートし、年々参加企業が増え、企業同士の交流も深まっていく中で、参加企業による独自のイベントや活動が広がっているといいます。私たちの身近にあるものづくり企業は、どのような技術があり、どのようなものづくりをしているのでしょう? 実際に「まち工場」を訪ね、「メイドインつづき」に関わる方々にお話を聞いてきました。

お話を伺ったのは、「メイドインつづき」参加企業である「株式会社ミカワ精機」代表取締役の近藤芳正さん、「株式会社コア・エレクトロニックシステム」専務取締役の佐々木純さん、「有限会社アバンテック」に所属する傍ら、様々な形でメイドインつづき参加企業のワークショップをコーディネートしている蟹江千里さん、都筑区役所で「メイドインつづき」推進事業を担当する総務部区政推進課の小針翼さんです。

都筑区大熊町にある「(株)ミカワ精機」
都筑区大熊町にある「(株)ミカワ精機」
都筑区大熊町にある「(株)ミカワ精機」。鶴見川沿いの、まち工場が立ち並ぶエリアに位置します。
ミカワ精機では、自動車のエンジン部品や精密機械の部品、お菓子の金型製作などの金属加工を行なっています。昔は熟練の職人さんが手作業していた金属の切り抜き加工業を、今は最先端のロボットも使いながら行っている様子を見学しました。
機械の細い調整や操作は、職人さんたちの手作業で行う場面も。指定の図面と寸分違わぬ形に切り抜き続けるという技術が、私たちの身近な便利な生活を支えていることを実感します。

当初「メイドインつづき」は、毎年開催されている大規模見本市のテクニカルショウへ出展することがメインの活動でしたが、活動を重ねていくうちに、ミカワ精機の近藤社長をはじめ、数社の熱い想いのある社長さんたちから「もっと面白いこともやりましょう!」と声が上がりました。「地域の人たちや子どもたちに、もっとものづくりの面白さや魅力を伝えたい!」と、まち工場から出た廃材や端材を活用して、子どもたちに「ものづくり体験」を提供したり、実際に子どもたちがまち工場を見学できる「まち工場探検」のイベントを開催するなど、積極的に地域と関わっていく地域貢献の取り組みを行なってきました。

ミカワ精機の隣にある「日生発條(株)」
工場の前にあった廃材置き場。
左/ミカワ精機の隣にある「日生発條(株)」も「メイドインつづき企業」。こちらでは、用途に合わせた多様なバネを製造しています。工場内にたくさんあるロボットは何本も腕を出したり引っ込めたりしながら細長い鉄の線をぐるぐると素早く巻いてバネを作っていきます。その様子はずっと見ていても見飽きないほど。
右/工場の前にあった廃材置き場。「子どもたちのワークショップのために、ここからも廃材をいただいています」と蟹江さん。想像意欲をシゲキする、面白そうな形のバネや金属がたくさん…。

今では、都筑区にある自治会や大型ショッピングモールからも、ワークショップの依頼が多数来るようになり、ちょうど取材を行った2022年11月〜12月は、毎週のように、都筑区各所でメイドインつづき参加企業がワークショップなどを開催していました。どこへ行ってもメイドインつづき企業のワークショップは大人気です。

「港北みなも」の『じゃない方の学校』というイベント
2022年11月12日に開催された、センター北駅とセンター南駅の間にあるショッピングモール「港北みなも」の『じゃない方の学校』というイベントにて。この日は、メイドインつづき企業であり、発泡スチロール加工会社の「第一フォーム株式会社」の社長さんが発泡スチロールの特徴や有用性を子どもたちに楽しくレクチャーしました。第一フォームは、イベント会場や店舗で使われる装飾や看板、サインといった造形物を発泡スチロールで受注生産する会社。「ここからすぐ近くに会社があります。いつでも見学に来てくださいね」と、仕事の内容や地域に開いた会社であることを教えてくれます。
発泡スチロールで出来た瓦割り体験
発泡スチロールで出来た瓦割り体験も。子どもたちはみんな喜んで挑戦!「全然痛くなかった〜!」と、普段できない経験に大興奮の様子。「本物の技術にふれる面白さ」が子どもと大人を惹きつけるポイントのようです。
『ドイツクリスマスマーケットin都筑2022』
同じく2022年12月3、4日にセンター北駅前芝生広場で開催されたイベント『ドイツクリスマスマーケットin都筑2022』にも「メイドインつづき」ブースを出店。こちらは「Lチカツリー(はんだづけと射出成形)」のワークショップの様子。高温になるはんだづけの作業は子どもも大人も真剣!この後、持ち込んだ機械を使って、粒子状に砕いたペットボトルキャップを溶かし成形用の枠に流し込み、リサイクルのプラスチック製のクリスマスツリー型も作ってしまいます。

「メイドインつづきに参加しているのは、ほとんどが中小企業の社長さんたちなので、その場でどんどん物事が決まっていくのが面白いよね。スピード感がすごいよ」そう話すのは、ミカワ精機の近藤さん。
「ものづくり」と一言で言っても、参加企業の専門分野は多種多様です。金属加工やプラスチック、電子機器や機械、紙製品などなど……これだけ多分野の企業が集まっていたら、確かに何でも「メイドインつづき」で生み出せる気がして、お話を聞いている私までワクワクしてしまいました。

オリジナルのガラスプレートと飾り台
メイドインつづき企業で協力して制作した、オリジナルのガラスプレートと飾り台。ガラスプレートに子どもたちに好きにお絵描きをしてもらうと、ステンドグラスのようになり、金属部分には打刻で文字も刻めます。ワークショップに使う素材は、どれもつながりのある企業が作ってくれたものとのこと。

「メイドインつづきに参加したことで、企業同士で受発注が生まれたり、他業種の分野についても、仕事で困った時は相談させてもらったりしています。地域での活動だけではなく、ビジネスとしての連携も生まれています」。そう話すのは、株式会社コア・エレクトロニックシステムの佐々木さん。
また、「メイドインつづき」の活動でやっていることは、自社だけでは経験できないことも多く、会社に帰っても役に立っているのだといいます。

株式会社コア・エレクトロニックシステムの佐々木さん、株式会社ミカワ精機の近藤さん、ワークショップコーディネーターの蟹江さん、都筑区総務部区政推進課の小針さん
左から、株式会社コア・エレクトロニックシステムの佐々木さん、株式会社ミカワ精機の近藤さん、ワークショップコーディネーターの蟹江さん、都筑区総務部区政推進課の小針さん。参加企業同士の横のつながりは、どのようにしてつくられてきたのですか?と質問すると、「そりゃあ、飲みニケーションでしょう」と笑って話す皆さん。コロナ禍でこの数年は難しいようですが、これまでは都筑区が開催する「全体ミーティング」の後に懇親会を開くなどして、交流を深めてきたのだと言います。とても和気あいあいとしていて、仲の良さが伝わってきました。

行政の中小製造業の支援事業として始まった「メイドインつづき」が、ものづくりやまち工場の魅力を発信する活動としても展開し、さらに参加企業同士の連携によって新たなビジネスチャンスも生まれていると聞いて、本当に素晴らしい循環が起きている、と感じました。

次世代の子どもたちに、ものづくり産業文化をつなぐ

最近では小中学校の総合学習で、ものづくりについて取り上げる学校も多く、メイドインつづきの参加企業が出前授業に赴くことも増えているのだそうです。「授業を通して、子どもたちがものづくりにふれ魅力を感じてもらうことで、地域のものづくり企業で働きたい!と職業選択の幅が広がればいいなと思っています。そのためにも、もっと色んな会社の方に、学校へ出ていけるようにこれからもコーディネートしていきたいです」と語る蟹江さん。
出前授業は、企業側にとっても、お金に替え難い「やりがい」を感じることも多いそうで、「次はこうしたら子どもたちにとって、もっといいのでは?」と、一回目以降、自ら学校の先生に提案をしにいく企業の方もいるのだとか。

「メイドインつづき」の今後のビジョンとしても、「子どもたちにワークショップをやる活動をもっと増やしていきたい」と語っていた皆さん。
「ものづくりだけではなくて、修理、販売のワークショップも今後出来たらいいなと思っています。『仕入れ→ものづくり→販売→修理』その全てを子どもたちに体験してほしいです」。そう話すのは、佐々木さんです。
また、「まち工場」というと、汚いとかうるさいという、イメージがあまり良くない大人もいるので、そのイメージを変えるために、子どもたちだけでなく「親子参加型のワークショップもやりたいね。地域で子どもたちを一緒に育てていくイメージだよね」と、近藤さんが語っていたのも印象的でした。そのような言葉が出てくるのも、地域と子どもたちについて、いかに大切に想っているのかが伝わってきました。

「遺跡でワークショップ!」の様子
2023年1月22日にセンター北駅近くの大塚・歳勝土遺跡公園内の工房でよこはま縁むすび講中実行委員会が主催した「遺跡でワークショップ!」の様子。弥生時代の環濠集落の大塚遺跡をモチーフに「自分だけの竪穴住居を作ろう」という歴史とものづくり、アートをミックスしたコンセプトの工作イベント。メイドインつづき参加企業や地元の製造業者、県内のデザイナーやアーティストがメンバーの協力で企画し、参加した親子に多彩な廃材を使って自由に作品づくりをしてもらいました。(撮影:森ノオト)

都筑区区政推進課の小針さんは「次のステップは、活動範囲を都筑区だけでなく他区とのつながりや横浜市全体へ広げていくことだと思います。区役所の独りよがりにならないよう、参加企業の皆さんの意見を伺いながら、ニーズがどこにあるのかをきちんと把握し、皆さんと一緒にメイドインを盛り上げていきたいです」と話していました。
皆さんのお話を聞いていると、まだまだこれからも「メイドインつづき」の活動や活動の幅は広がっていきそうです!

中小製造業の技術や製品は、大企業ほど有名ではないかもしれませんが、その優れた独自の技術や製品は、私たちの生活を支えている必要不可欠なものばかり。その価値を、体験を通して、しっかりと次世代の子どもたちに伝えていくことは、本当に大切なことだと思います。

子どもたちにとって「自分の住んでいる街に、すごい技術を持った会社がこんなにたくさんあったんだ!」と知ることで「私の街ってすごい!!」と地域を誇りに思い、子どもたちに自信を持って生きていって欲しい!そのような想いも取材を通して、皆さんの言葉から感じました。

これからも「メイドインつづき」への参加企業が増え、新たなものづくりや交流が生まれ、新たなワークショップや地域活性のアイデアが生まれることが楽しみです。そして、今後もこの地域とものづくり企業で「技術」や「人」、「次世代の子どもたちへの想い」が循環し続けることによって、地域も産業も共に豊かに発展し続けていけることを願っています。

information

メイドインつづき推進事業(都筑区)

https://www.city.yokohama.lg.jp/tsuzuki/shokai/kogyo-nogyo/chushokigyo/madeintsuzuki.html

まち工場探検隊(メイドインつづき参加企業による自主活動)

http://madeintsuzuki.com/index.html

港北オープンファクトリー(港北区)

https://www.city.yokohama.lg.jp/kohoku/shokai/bunkakanko/open/openfactory.html

大塚・歳勝土遺跡公園

https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/koudou/see/iseki_kouen/

この記事を書いた人

持田三貴子

都筑区在住。SDGsをテーマに地域のお母さんたちとゴミ拾いの活動などを行う。ふだんは夫と川崎市で造園業を営む、自然を愛する3児の母。

よこはま縁むすび講中

http://yokohama-enmusubi.jp/

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