【シリーズ 横浜北部文化考】
ものづくりも地産地消?!まち工場(こうば)が連携し、仕事の魅力を次世代にあたたかく伝える
製造業者の集積地という一面もある横浜北部。今、地域の製造業関連の中小企業が横につながり、それぞれに腕を誇る「ものづくり」の魅力を子どもたちに伝えようというムーブメントがあるのをご存じでしょうか?地域の学校や商業施設、イベントやミュージアムなど様々な場に出張してものづくりの魅力や仕事としての面白さを伝える「メイドインつづき」参加企業のネットワークの例を紹介します。
取材・撮影 持田三貴子
「ものづくり産業」も、私たちの誇るべき地域文化の一つ
「よこはま縁むすび講中」のフィールドである横浜市北部4区(港北区、緑区、青葉区、都筑区)は、都心からのアクセスも良く、緑豊かな住宅地であるとともに、実は、工業や農業などの「産業」が盛んな地域でもあります。特に港北区、都筑区には、ものづくり企業が多く立地しており、横浜市内における製造業事業所数の1位が港北区(453)、2位が都筑区(362)、3位鶴見区(323)、4位金沢区(250)(令和2年6月時点 横浜市政策局発表)……というように、この地域は工業のまちでもあるのです。
特に工場の建つエリアが多い都筑区と港北区では、このように身近にものづくりの現場があることを地域の特色として捉え、「まち工場」を地域の魅力として発信する取り組みが近年行われています。
都筑区では、区内に立地するものづくり企業が持つ高度な技術や独創的な製品を「メイドインつづき」というブランドとしてPRし、販路開拓や企業間連携につながる支援事業を平成22(2010)年度から始めています。
また、港北区では、ものづくりの面白さや作り手の思いを伝えるイベントとして、一般市民を対象にした「港北オープンファクトリー」という工場見学の取り組みを平成24(2012)年度から開催しています。
事例レポート 産業や工場と絡めた新しい地域活性の動き「メイドインつづき」
都筑区では、一定の申請要件を満たした区内に立地する中小製造業の中から「メイドインつづき企業」を募集・選定し、令和4(2022)年11月現在45社のものづくり企業が「メイドインつづき推進事業」に参加しています。いずれも優れた独自の技術と製品を持つ会社ばかりです。
「メイドインつづき」の主な取り組みとしては、①毎年2月にパシフィコ横浜で開催されている、県内最大級の工業技術・製品の総合見本市「テクニカルショウヨコハマ」(神奈川県または横浜市などが主催)にて、「メイドインつづきブース」を設け、その一角にメイドインつづき企業が自社ブースを出展できるという支援のほか、②メイドインつづき企業の紹介冊子や動画の制作、パネル展や子どもたちの「ものづくり体験」イベントなどの開催、③参加企業間の交流や連携を深めるため、年に数回の全体ミーティングの開催などが行われています。
「テクニカルショウ」への出展は、規模が小さな会社にとってはハードルが高いものでしたが、メイドインつづきブースで出展することによって、独自出展よりも小規模・安価で参加することができるのだそう。
「メイドインつづき」は、行政の支援事業としてスタートし、年々参加企業が増え、企業同士の交流も深まっていく中で、参加企業による独自のイベントや活動が広がっているといいます。私たちの身近にあるものづくり企業は、どのような技術があり、どのようなものづくりをしているのでしょう? 実際に「まち工場」を訪ね、「メイドインつづき」に関わる方々にお話を聞いてきました。
お話を伺ったのは、「メイドインつづき」参加企業である「株式会社ミカワ精機」代表取締役の近藤芳正さん、「株式会社コア・エレクトロニックシステム」専務取締役の佐々木純さん、「有限会社アバンテック」に所属する傍ら、様々な形でメイドインつづき参加企業のワークショップをコーディネートしている蟹江千里さん、都筑区役所で「メイドインつづき」推進事業を担当する総務部区政推進課の小針翼さんです。
当初「メイドインつづき」は、毎年開催されている大規模見本市のテクニカルショウへ出展することがメインの活動でしたが、活動を重ねていくうちに、ミカワ精機の近藤社長をはじめ、数社の熱い想いのある社長さんたちから「もっと面白いこともやりましょう!」と声が上がりました。「地域の人たちや子どもたちに、もっとものづくりの面白さや魅力を伝えたい!」と、まち工場から出た廃材や端材を活用して、子どもたちに「ものづくり体験」を提供したり、実際に子どもたちがまち工場を見学できる「まち工場探検」のイベントを開催するなど、積極的に地域と関わっていく地域貢献の取り組みを行なってきました。
今では、都筑区にある自治会や大型ショッピングモールからも、ワークショップの依頼が多数来るようになり、ちょうど取材を行った2022年11月〜12月は、毎週のように、都筑区各所でメイドインつづき参加企業がワークショップなどを開催していました。どこへ行ってもメイドインつづき企業のワークショップは大人気です。
「メイドインつづきに参加しているのは、ほとんどが中小企業の社長さんたちなので、その場でどんどん物事が決まっていくのが面白いよね。スピード感がすごいよ」そう話すのは、ミカワ精機の近藤さん。
「ものづくり」と一言で言っても、参加企業の専門分野は多種多様です。金属加工やプラスチック、電子機器や機械、紙製品などなど……これだけ多分野の企業が集まっていたら、確かに何でも「メイドインつづき」で生み出せる気がして、お話を聞いている私までワクワクしてしまいました。
「メイドインつづきに参加したことで、企業同士で受発注が生まれたり、他業種の分野についても、仕事で困った時は相談させてもらったりしています。地域での活動だけではなく、ビジネスとしての連携も生まれています」。そう話すのは、株式会社コア・エレクトロニックシステムの佐々木さん。
また、「メイドインつづき」の活動でやっていることは、自社だけでは経験できないことも多く、会社に帰っても役に立っているのだといいます。
行政の中小製造業の支援事業として始まった「メイドインつづき」が、ものづくりやまち工場の魅力を発信する活動としても展開し、さらに参加企業同士の連携によって新たなビジネスチャンスも生まれていると聞いて、本当に素晴らしい循環が起きている、と感じました。
次世代の子どもたちに、ものづくり産業文化をつなぐ
最近では小中学校の総合学習で、ものづくりについて取り上げる学校も多く、メイドインつづきの参加企業が出前授業に赴くことも増えているのだそうです。「授業を通して、子どもたちがものづくりにふれ魅力を感じてもらうことで、地域のものづくり企業で働きたい!と職業選択の幅が広がればいいなと思っています。そのためにも、もっと色んな会社の方に、学校へ出ていけるようにこれからもコーディネートしていきたいです」と語る蟹江さん。
出前授業は、企業側にとっても、お金に替え難い「やりがい」を感じることも多いそうで、「次はこうしたら子どもたちにとって、もっといいのでは?」と、一回目以降、自ら学校の先生に提案をしにいく企業の方もいるのだとか。
「メイドインつづき」の今後のビジョンとしても、「子どもたちにワークショップをやる活動をもっと増やしていきたい」と語っていた皆さん。
「ものづくりだけではなくて、修理、販売のワークショップも今後出来たらいいなと思っています。『仕入れ→ものづくり→販売→修理』その全てを子どもたちに体験してほしいです」。そう話すのは、佐々木さんです。
また、「まち工場」というと、汚いとかうるさいという、イメージがあまり良くない大人もいるので、そのイメージを変えるために、子どもたちだけでなく「親子参加型のワークショップもやりたいね。地域で子どもたちを一緒に育てていくイメージだよね」と、近藤さんが語っていたのも印象的でした。そのような言葉が出てくるのも、地域と子どもたちについて、いかに大切に想っているのかが伝わってきました。
都筑区区政推進課の小針さんは「次のステップは、活動範囲を都筑区だけでなく他区とのつながりや横浜市全体へ広げていくことだと思います。区役所の独りよがりにならないよう、参加企業の皆さんの意見を伺いながら、ニーズがどこにあるのかをきちんと把握し、皆さんと一緒にメイドインを盛り上げていきたいです」と話していました。
皆さんのお話を聞いていると、まだまだこれからも「メイドインつづき」の活動や活動の幅は広がっていきそうです!
中小製造業の技術や製品は、大企業ほど有名ではないかもしれませんが、その優れた独自の技術や製品は、私たちの生活を支えている必要不可欠なものばかり。その価値を、体験を通して、しっかりと次世代の子どもたちに伝えていくことは、本当に大切なことだと思います。
子どもたちにとって「自分の住んでいる街に、すごい技術を持った会社がこんなにたくさんあったんだ!」と知ることで「私の街ってすごい!!」と地域を誇りに思い、子どもたちに自信を持って生きていって欲しい!そのような想いも取材を通して、皆さんの言葉から感じました。
これからも「メイドインつづき」への参加企業が増え、新たなものづくりや交流が生まれ、新たなワークショップや地域活性のアイデアが生まれることが楽しみです。そして、今後もこの地域とものづくり企業で「技術」や「人」、「次世代の子どもたちへの想い」が循環し続けることによって、地域も産業も共に豊かに発展し続けていけることを願っています。
information
メイドインつづき推進事業(都筑区)
https://www.city.yokohama.lg.jp/tsuzuki/shokai/kogyo-nogyo/chushokigyo/madeintsuzuki.html
まち工場探検隊(メイドインつづき参加企業による自主活動)
http://madeintsuzuki.com/index.html
港北オープンファクトリー(港北区)
https://www.city.yokohama.lg.jp/kohoku/shokai/bunkakanko/open/openfactory.html
大塚・歳勝土遺跡公園
https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/koudou/see/iseki_kouen/
この記事を書いた人
持田三貴子
都筑区在住。SDGsをテーマに地域のお母さんたちとゴミ拾いの活動などを行う。ふだんは夫と川崎市で造園業を営む、自然を愛する3児の母。